2012年8月23日木曜日

最大の懸案は拉致問題

日朝正常化交渉は、二〇〇〇年四月に第九回会談として再開された。北朝鮮側の主張からすれば、再開された交渉はこれまでの交渉の連続であり、新たな議題は取り上げないことになる。また、拉致問題は議題にならず「戦後の償い」には応じるべきであるというのが、北朝鮮の立場である。これは、日本の政治家が与党訪朝団などの合意文書で北朝鮮側の主張を認めるような形式を受け入れてしまったためである。政治家の勝手な合意で、交渉に当たる外交官が国益を守るために苦労させられているのであ・る。

日本人拉致疑惑では、日本政府は七件一〇人の日本人が拉致された可能性が極めて高く、それなりの証拠があるとしている。公安警察は、一〇〇人近い日本人が、拉致されて北朝鮮にいるとの見方である。これに対し、日本の政治家の中には「拉致したという証拠ぱないではないか」と、北朝鮮と同じような主張をする人物もいる。これは、間違いである。原軟晃さん拉致事件は、工作員が自白し韓国で服役したのである。これは、「証拠」以外の何物でもない。また、欧州で行方不明になった日本人が、平壌で生活している事実も明らかになっている。

こうした事実を検証すれば、何らかのかたちで北朝鮮から出国できなくなっている日本人がいるのは事実である。こうした男女の全員が、文字通り「拉致」された人たちでぱないかもしれない。北朝鮮でいい仕事があると編されて、「自由意志」で北朝鮮に渡ったが、その後自由を奪われ工作員の教育係などをさせられているケースもあるだろう。

日本政府としては、こうした日本人の問題解決に北朝鮮が何らかの前向きの対応を示さない限り、日朝正常化はできないという立場である。これは、外交政策としては正しい対応である。日本政府が、日本国民の生命に重大な関心を寄せていることを、国民はもとより北朝鮮に十分に理解させることは、大切である。そうでなければ、日本政府は国民の信頼を失うからだ。

外交とはそうした基本原則は強硬に主張しながらも、現実的な解決策を模索するものである。とりあえずは、北朝鮮が「被拉致日本人」の生死について、公式・非公式を問わず通告することがこの問題を解決する「誠意」の表明になる。ただ、日本人拉致問題は金正日総書記が決断しない限り、解決はない。日本の指導者や首相の特使が、直接金正日総書記と話し合うことが、解決への唯一の道である。それまでは、交渉担当者は「拉致問題が前進しない限り、日本国民は日朝正常化を認めない」と言い続けるしかない。政治家は、そうした外交戦略を妨害し、利敵行為をしてはならない。外交交渉は、アメリカのように超党派で交渉担当者を支援するしかないのである。