2015年4月4日土曜日

顧客と知人を増やす

こうしたちょっとした差が生み出す大きな格差と、全てにおいて要求されるスピードが苦手な人は、そもそも外資系を目指さないほうがよいだろう。但しこの不条理と速度感は、停滞する日本企業が外資系から積極的に学ぶべきことでもあると私は考えている。外資系で実績を増やす有力な方法の一つは、「顧客を沢山抱え、頼りになる知人を持つこと」だ。あえて「友人」とは言わない。学生時代や日系企業で働いている時からの友人ならばそう呼ぶべきだが、一般的に「外資系の社会では友人はできない」と思ったほうがよいので、ここでは知人という言葉を使うことにする。

知人は社内、社外、両方で作ることが可能だ。社内であれば、同僚、斜めの位置にある上司(同僚の上司という意味)や部下が対象となる。これは何度も書いていることだが、外資系では直属の上司、部下の関係が全てであるから、知人の候補から上司と部下は排除される。上司の上司、部下の部下も同様の理由で知人の対象にならない。余談だが、上司の上司について述べる。日系企業と違って外資系では、上司の上司を自分の保身のために使おうとすると、大火傷することがあるので要注意だ。その理由は、上司の上司の目から見れば、あなたの上司は彼(彼女)の直属の部下であり、部下の忠誠心をつなぎとめておくためには、それ以外の要素は全て不要、有害であるからだ。

仮にあなたが直属の上司と仕事上で対立して、上司の上司に直訴したと考えてみよう。あなたの言い分かもし正しいとしても、それがよほど重要なことでない限り、上司の上司はあなたの上司の肩を持つ。たとえそのためにあなたが離職したとしても、彼にしてみればあなたの上司が辞めるよりもダメージは圧倒的に少ない。日本企業でよくある上司を飛び越えての直訴は、あなたが会社を辞めてでも意見を通したい場合でない限り、外資系ではすべきではない。このことを勘違いする人は案外少なくない。

上司にとって自分を頭越しにする部下の直訴は反乱と同じである。反乱分子は取り除くしかない。直訴はあなたとあなたの上司の関係を決定的に悪くする。上司の上司は必ずあなたの上司に直訴のことを告げ、そして上司の言い分を尊重するだろう。つまりあなたにとって得なことは一つもない。外資では「損得」が全ての価値基準であり、「正邪」は不要かつ有害な判断基準である。たとえそうであっても「上司の仕事が見苦しい、正しくない」と言い張るメリットはゼロであり、デメリットは数限りなくあるということである。だから外資系で上司に従いたくないと思った時には離職するか、一か八かで反乱する(つまり直訴する)しかない。しかし、後者の成功率が限りなくゼロに近いのは前述の通りである。

話を戻すと、顧客の力と社内外の知人の力は、最終的には上司一人の力に及ばない。上司と対立した場合、お客さんも社内外のサポーターも最後には助けてくれない。しかし、上司や部下との人間関係が良好な時は、こうした人々の存在が安全弁となる。顧客に自分のことを褒めさせる、社内の斜め関係の上司に社内ミーティングで自分の意見を支持してもらう、といったやり方であなたの地位は少し安定する。何かのきっかけで離職することになったとしても、彼らはあなたにとってありかたいレファレンス(照会先)となる。顧客や社外の知人によるあなたを推奨する言葉は、社内の知人のそれよりも格段に強いが、多くのヘッドハンターはこのことに気づかない。