2015年7月4日土曜日

世界に通用する製品

旧ソ連が抱える政治・社会問題は、きわめて深刻だ。連邦崩壊以前にすでにGNPが減少しはじめたのは、リトアニア、アルメニア、アゼルバイジャン、タジクなどの共和国で民族対立や国境紛争が起きて、共和国間の物資の流通がうまくいかなくなったのが最大の原因だ。対立するグループ同士が交流を拒否したために、国内市場が事実上機能を停止したのだ。連邦が崩壊し各共和国が独立して、事態はますます悪い方向へ動いている。独立した共和国のうち、少なくともロシア、ウクライナ、カザフは一夜にして核保有国になった。

連邦経済の崩壊は社会的・軍事的崩壊にくらべれば危険性は小さいかもしれないが、問題の複雑さは変わらない。完全に自給自足の可能な地域などはありえないにしても、旧ソ連邦を構成していた各共和国は、アメリカの五〇州をバラバラにして独立させた場合よりもずっと自給能力が低い。スターリンは大量生産こそ経済的飛躍への道だとして市場経済の社会ではありえないような巨大な工場を建設した。

ある調査によれば、ソ連国内で生産される六〇〇〇種近い商品のうち七七パーセントが一品種一工場の方式で集中的に生産されていたという。生産施設は、限られた地域に極端に偏っている。旧ソ連邦から独立しても、各共和国には「経済」と呼ぶべきシステムがない。ロシア共和国とトルクメン共和国はエネルギー資源を握っているので発言力が強くなるだろう。

各共和国としては独立後もこれまでと同じようにお互いに交易を続けるのが理にかなっているのだが、現実には難しいだろう。たとえば油田を持つ共和国は、粗悪な商品と引きかえに他の共和国に原油を売るよりも、国際市場で売って米ドルを入手したほうがいいと考えるにちがいない。しかし大多数の共和国は、世界市場ではとても売り物にならない粗悪な製品を大量に背負い込むことになるだろう。世界に通用する製品を生産できるようになるまでには、まだまだ何年もかかる。

共和国間の商品流通がうまくいかないのに加えて、個人レベルでも物資の交流が滞るようになるだろう。すでに農民は、収穫した農産物をためこみ始めている。秋になっても穀物を売らずに貯蔵しておけば、食糧が不足する冬になって高値で売れるからだ。一九九一年秋、政府の穀物倉庫には通常の三分の一しか食糧がなかった。政府はトンあたり三〇〇ルーブルで穀物を買い上げる交渉をしているか、農民はこ一〇〇ルーブルを要求して譲らない。作柄か悪いわけではないのに農民か食糧の出し惜しみをしたために飢饉か起きた例は、歴史にも珍しくない。