2016年4月5日火曜日

途上国累積債務問題は見通しがつかないままである

さて、途上国累積債務問題は見通しのつかぬまま現状維持が続くとすれば、途上国社会や政治の不安定化を激発するおそれがある。また、東欧圏諸国がIMF・世銀加盟の道を選び、西側責任分担が重くなる可能性もある。

さらに、途上国への先進国直接投資対象に対する「しのびよる国有化」、ナショナリズムめ昂揚、排外思想激発、そして国有化発動などの傾向を刺激するかもしれない。

そして基本的には先進国内部でも途上国債務処理の巧拙をめぐって競争が激化し、優勝劣敗が顕在化するであろう。われわれは今やヒューズの長さが不明な爆弾を抱えこんでいるのであいままではほぼ地域別に国際金融の動態を眺めてきたが、国際金融を動かしているゲームの個々の実像を横断的に眺めてみることとしよう。

2016年3月4日金曜日

バブル崩壊による地価下落

土地本位制はわが国経済・金融システムの根幹であり、それはわが国の金融システムにおいて間接金融が主流をなしていることと裏腹の関係にある。バブルの発生・崩壊によってその基本が乱れたために、わが国の金融危機は起ったといってよい。わが国の金融危機の最大の原因は、そういう意味で地価下落である。

バブル崩壊による地価下落はバブル発生の反動でもあるから、金融にとっては自業自得という面もあるのだが、八年続きの七割を上回る地価下落ともなると、バブルを超えたわが国経済社会の構造変化を反映していると考えざるを得ない。そういう意味では、今や金融部門は地価下落の脅威を被る立場になっている。

そのことは不良債権問題に止まらず、わが国の金融システムに大きな問題を投げかけている。二十一世紀初頭におけるわが国金融の最大の課題は、ビッグバンなどということではなく、じつは上地本位制からの円滑な脱却なのである。今や、土地はもはや価値を保蔵するものとして国民の信頼を得ていない。この傾向は、わが国の人口の長期的減少もあって今後も続くだろう。そうなると、土地は金融活動の媒体として機能しなくなり、上地本位金融制度は維持できなくなる。最近の貸渋りにその発端が見られる。地価下落による土地担保不足から、金融活動の媒体の量が不足してしまったのだ。

江戸中期に新井白石は、悪貨を駆逐し物価騰貴を抑えるため、貨幣の質を高めた。その結果通貨供給量が減少し、不況が起ったという。全く事情は違うが、土地本位制において地価が下落することにより、通貨減少という意味では同じ現象が起っている。土地本位金融制度が機能障害を起こしているのである。

実はこのような問題はバブルの発生とも密接な関係を持っている。経済の発展に伴い、金融活動が飛躍的に増大しているにもかかわらず、土地という極めて限られたものが取引の尺度となっていたのである。そうなると、貨幣の悪鋳を続けなければ、経済は回らない。それが土地の騰貴であった。「日本では、過剰流動性の洪水が上地に集中する」のは、そのような事情があるからである。

2016年2月4日木曜日

預金者保護と借り手保護

そんな折り十一月二十八日に、かねてからの懸案であったとはいえ、財政構造改革法が可決・成立したのは、特に海外では調子はずれの感をもたらした。そういう受け止め方は、市場を通して直ちに国内へも跳ね返る。この緊急事態に対し、政策転換を求める声が相次ぐ。十二月十六日に自民党は金融システム安定化のための緊急対策を決定、また翌十七日には、緊急国民経済対策(第三次)を発表した。

マレーシアでのAPEC首脳会議から帰ってきた橋本首相も、従来の財政再建路線を緩め、二兆円の特別減税を発表せざるを得なかった。この頃には、わが国の金融危機がアジアの経済危機と連動して、世界恐慌の引き金を引きかねないとの危惧を持つ人が多かったのである。

アジア通貨危機の発端となったタイの通貨危機が発生したのは、九七年七月のことであった。その後秋にかけて通貨危機はインドネシアに飛び火し、東アジア一帯に燃え広かった。このような微妙な時期に、わが国を代表する金融機関の破綻が起ったことは予想以上の心理的影響を及ぼした。わが国の金融機関の破綻と東アジアの金融危機との間に直接的なつながりはないのだが、二つのショックが同時に起り激しく共鳴して影響を増幅してしまった側面がある。

財政再建による国内経済問題、連続的なわが国金融機関の破綻、東アジアの通貨危機がこの時期に集中して起り、あれよあれよという間に一大カオスを発生させてしまった。個別に起っていれば、これほどの混乱にはならなかったことだろう。

拓銀の破綻を契機として、北海道経済は窮地に陥っていた。銀行の破綻が地域経済にどれほど大きな影響を与えるかが、身にしみるようになった。銀行の破綻は、従来は預金者保護との関係において論じられてきたのであるが、それだけではないとの機運が強まる。私は十二月三日付の朝日新聞・論壇に「預金者保護と借り手保護」と題する一文を寄稿した。