2014年11月5日水曜日

成長の時代に定着した日本型賃金慣行

このように見てくると終身雇用という観念は通念として流布はしていても、それを支える制度もまた実態も確立してはいない事が明らかである。そして終身雇用といえるような長期安定雇用を維持しようとするならなんといってもその基本的条件は経済成長であり、また労働力の人的資本の価値である事が明らかであるといえる。

そうであるとすれば、いわゆる終身雇用的な雇用のあり方をこれからも維持してゆくためには、単に雇用調整を抑制するのではなく、むしろ新たな雇用需要を創出するような経済成長や生産構造の改革を進め、人々が新たな技術に対応できるよう人的投資によって人的資本の価値を高めてゆく事が基本となる。そしてまた、適材が適所に配置されるよう労働市場の情報ネットワークを整備し、適切な流動化を進める事を政策の基本に置かねばならないだろう。こうした政策的課題については最終章で詳述することにしたい。

日本企業の賃金慣行には大別して二つの際立った特色がある。ひとつはいわゆる年功賃金であり、いまひとつは春闘による年々のベースーアップすなわち賃上げである。この両者はともに戦後、とりわけ前述の高度経済成長時代に日本の産業界にひろく普及し定着したものである。以下、この二つについてその中身と、それがなぜ高度成長の時代に定着することになったかをたしかめておくことにしよう。

まず、年功賃金である。年功賃金は賃金が年の功によって上昇する賃金という事である。勤労者が企業内で経験を積むにしたがって賃金串が高くなってゆく賃金体系である。勤労者が同じ企業に勤めている限り、勤続年数がふえると同時に年齢も高まるから、同一企業に定着している労働者にとっては年齢とともに賃金が上昇してゆくようにも見えるが、基本的には勤続年数にしたがって賃金がふえる。中途採用者の場合には年齢が高くても勤続年数が少ないから賃金は低い。企業外での経験年数が考慮される事も多いが、それも通常はあるていど割引かれて加算される。