2013年8月28日水曜日

沖縄にやってくる観光客の多くは団体客

沖縄の人たちは、二〇年ほど前まではもっぱらバスを利用していたが、補助金で道路を集中的に整備したこともあって、自家用車保有台数が急激に伸びた。そこへ、稲嶺知事時代にレンタカーを一気に増やしたことが重なり、那覇は慢性的に渋滞するようになった。余談だが、現在、沖縄のレンタカーは、シーズンオフで二万台、シーズン中だと四万台と言われ、約五〇〇〇台と言われるタクシーに比べたらものの比ではない。これだけ増えると、自動車会社から新車の試乗をしてもらおうと売り込みに来るそうだ。そして、一年ほど乗ったら東南アジアなどに売り払うために、県内は常に新車が循環するようになっている。

そのうえレンタカー会社が乱立し、過当競争のあげく、一〇〇〇CCクラスなら一日二〇〇〇円を切るところもあらわれた。観光客にすれば下手にタクシーに乗るより安あがりというわけで、レンタカーの需要は急増しているそうである。水不足や交通渋滞だけではない。電力不足もそうだ。沖縄には「沖縄電力」という、沖縄県のみに電力供給を行う会社がある。かつて沖縄を占領した米軍から余剰電力を提供してもらっていたが、琉球列島政府ができると琉球電力公社が設立された。復帰後、これを母体に衣替えしたのが沖縄電力である。離島が多いせいか、沖縄ではほぼ一〇〇%近くを火力発電に頼っている。原子炉は最低でも発電能力が八〇万キロワットと巨大なため、需要を軽くオーバーしてしまうから使えないのだ。

ただ、需要が右利上がりで増えていて、五〇万キロワット程度の小型原子炉ができたら、導入するつもりのようである。むろん一九八六年に起きたチェルノブイリ原発のような事故が起きたら、沖縄本島は一瞬にして消滅するだろうが。観光客を1000万人に増やすということは、ただ増えるだけではない。さまざまな問題も抱え込むということなのである。沖縄へ来る観光客の単価を上げるためには、どうすればいいか。観光客を増やしたいというのは、手っ取り早く言えば、もっとお金を落としてほしいということだろう。それなら、数を増やすよりも、観光客一人当たりが使うお金を増やせばいい。もはや観光事業は「数」でないことは常識で、こうしたことは、沖縄県が編集した資料の随所にも出てくる。

かといって宿泊料金を上げれば観光客は減るだろうし、「もっと買ってくれ」と叫んだところで、魅力的な商品がなければ簡単に財布を開けてはくれない。「単価を上げる」ことはわかっていても、どうやって上げるかが悩みの種なのだ。沖縄県が調査した資料によると、観光客一人が消費する金額は七万円強のようだが、これを九五年と〇四年を比較してみると約一万七〇〇〇円も減っている。観光客は増えたが、カネを遣わなくなったのである。沖縄県は、この消費単価を増やせとやっきになっているが、その効果はまだ霧の中である。

沖縄にやってくる観光客の多くは団体客である。彼らは本土のツーリストに金を払い、本土の飛行機で来島し、本土資本のホテルに泊まるから、彼らの落とすカネのほとんどは本土の企業がかっさらっていく。そのうえ予定されたテーマパークをピンポイントで移動するから地元にカネが落ちない。極端なことを言えば、沖縄は労働力とおみやげで稼いでいるのである。これは県内の観光地にも影響している。北部の本部町に、入館者が年間三〇〇万人をこえる「美ら海水族館」があるが、役場は築数十年の、今にも倒れそうな建物だ。雨漏りがひどいが、建て替えるお金もないらしい。なぜお金がないのかというと、米軍基地がないことと、観光客がお金を落とさないからである。

「美ら海水族館」があるじゃないかと言うと、「あれは国の施設だから、本部町には税金が落ちないんです」と役場の人は言った。たしかに本部町にはこれといった施設はないが、それを差し引いても、悲しいかな本部町にはほんとうに観光客が流れてこない。観光客は「美ら海水族館」を見ると、次は「やんばる亜熱帯園」へと、点から点へ移動するからである。観光客にとって、本部町は存在しないも同然なのだ。本部町住民にすれば、金を落とさない観光客は排気ガスをまき散らし、ゴミを捨てていくやっかいな存在に映る。こんなことが起こるのも、沖縄の観光は団体客に支えられているからだ。