2015年6月4日木曜日

非正社員を雇わない大企業が続出

2ちやんねるなどのネット上の掲示板を見ても、ライブドアでの投票と同様、「派遣労働者以外が『派遣村』に流人しているのではないか」「本当に生活できないのか」といった指摘が目立つという。こんな情勢から労働者派遣法の規制が強化されれば、どういう事態が発生するのだろうか。マスコミは社会正義が貫かれたと喜ぶかもしれないが、そんな態度は、あまりにも自分達の給料が高すぎて、庶民の感情を理解していない証拠にすぎない。当たり前の結論だが、派遣労働者を雇うコストが高くなったり、「派遣切り」などで法令遵守を強く意識する大企業は、派遣労働者を雇わなくなる。派遣労働者だけではない。工場で働く期間工などの直接雇用の非正社員や、サービス業で働く契約社員やパート、アルバイトなどの非正社員まで雇わない可能性もある。

労働者派遣法を改正して派遣労働者を保護するのであれば、その他の非正社員の待遇も改善せざるを得ないし、非正社員全体に対する企業の雇用責任も強化せざるを得なくなる。派遣労働者だけを過剰に保護することはバランスを欠くからだ。それだけではない。今後5年間程度は、厚生労働省による事業所や企業に対する取り締まりも強化されると予想される。具体的には、各地の労働基準監督署が「不正なサービス残業をさせていないか」「非正社員という理由で不当に解雇していないか」などを厳密に監督するようになるのだ。労働基準監督署で働く監督官は司法権限を持っており、法律違反に対して検察庁へ送致できる。そのため、本格的な監督を行えば困る企業も多数出てくるだろう。

厳密な証拠があるわけではないが、厚労省も政府の一員である以上、これまでも景気情勢や企業体力に合わせて、企業の労働法違反を取り締まってきた観がある。バブル経済崩壊後の長期不況期に「積もりに積もったサービス残業」を取り締まりだしたのも、景気や企業体力が回復した後である。違法な派遣に対する取り締まりの強化も景気回復後のことである。しかし、今後5年間程度は、金融危機で企業が不安定だという理由だけで、労働法違反に対する取り締まりが弱くなるとは考えにくい。もし労働基準監督署の指導が弱くなれば、企業にばかり配慮しているという世論が強くなり、政府が批判の矢面に立たされるからだ。

そのような状況を考えると、企業はますます非正社員の採用を手控える可能性が高くなると考えられる。企業が非正社員を抱えるリスクが高くなるからである。その結果、失業率が高止まる可能性が高い。バブル経済崩壊後に失業率が改善した大きな要因の一つは非正社員制度にある。非正社員として雇われる人が増えた結果、失業率が改善されてきたにすぎないのだ。非正社員が雇いにくくなれば、企業は雇用を控えるという選択をするのは明らかだ。

その一方で、派遣労働者などの非正社員が生活保護に安易に依存しようとすると、世間はものすごいバッシングを浴びせる可能性がある。人口減少・高失業率社会では、雇用のミスマッチが生じているだけで、働く場所はいくらでもある。大企業の派遣切りで職を失ったのであれば、農業でも介護でもタクシーの運転手でもやればいいという意見は必ず出てくる。確かに、金融危機直後の現時点のように、日本全体が世界同時不況の中で一種の興奮状態にある時には、非正社員の雇用保険や職業訓練などに積極的賛成を示すのかもしれないが、少し時間が経過すると、異なった対応を示すようになるだろう。また、増税を伴うような措置などにまで踏み込んだセーフティーネット構築にまで至ると、ものすごい反発が生じると予測される。