2016年2月4日木曜日

預金者保護と借り手保護

そんな折り十一月二十八日に、かねてからの懸案であったとはいえ、財政構造改革法が可決・成立したのは、特に海外では調子はずれの感をもたらした。そういう受け止め方は、市場を通して直ちに国内へも跳ね返る。この緊急事態に対し、政策転換を求める声が相次ぐ。十二月十六日に自民党は金融システム安定化のための緊急対策を決定、また翌十七日には、緊急国民経済対策(第三次)を発表した。

マレーシアでのAPEC首脳会議から帰ってきた橋本首相も、従来の財政再建路線を緩め、二兆円の特別減税を発表せざるを得なかった。この頃には、わが国の金融危機がアジアの経済危機と連動して、世界恐慌の引き金を引きかねないとの危惧を持つ人が多かったのである。

アジア通貨危機の発端となったタイの通貨危機が発生したのは、九七年七月のことであった。その後秋にかけて通貨危機はインドネシアに飛び火し、東アジア一帯に燃え広かった。このような微妙な時期に、わが国を代表する金融機関の破綻が起ったことは予想以上の心理的影響を及ぼした。わが国の金融機関の破綻と東アジアの金融危機との間に直接的なつながりはないのだが、二つのショックが同時に起り激しく共鳴して影響を増幅してしまった側面がある。

財政再建による国内経済問題、連続的なわが国金融機関の破綻、東アジアの通貨危機がこの時期に集中して起り、あれよあれよという間に一大カオスを発生させてしまった。個別に起っていれば、これほどの混乱にはならなかったことだろう。

拓銀の破綻を契機として、北海道経済は窮地に陥っていた。銀行の破綻が地域経済にどれほど大きな影響を与えるかが、身にしみるようになった。銀行の破綻は、従来は預金者保護との関係において論じられてきたのであるが、それだけではないとの機運が強まる。私は十二月三日付の朝日新聞・論壇に「預金者保護と借り手保護」と題する一文を寄稿した。