2013年7月4日木曜日

『生産年齢人口の減少を少しでも弱める

今後五年間に六五歳を超えていく団塊前後の世代だけでも一千万人以上います。これに対して、日本在住の外国人は不法在留者を足しても二二〇万人、団塊前後の世代の二割程度しかいません。これは在日韓国人・朝鮮人の六〇万人を含む数字なので、見た目で、あるいは話せば外国人とわかる人の数はそれよりさらに少ないわけです。ちなみに過去一〇年間の増加は留学生を含め六〇万人、毎年の増加は六万人というペースです。これに対し○五年から今年までの足元の五年間だけで日本在住の生産年齢人口は三〇〇万人以上減っているものと見られます。毎年六〇万人、外国人流人実績の一〇倍の速さです。さらにその後の五年間にはもう四五〇万人、二〇年先までだと一四〇〇万人、四〇年先まででは三二〇〇万人の減少を、社人研は予測しているわけですが、このレベルの減少を現在二〇〇万人少々しかいない外国人を急増させることで補えるものと、つまり年間六万人の増加を突然に一〇倍以上ペースアップさせることが可能であると、本気で考えている人がいるのでしょうか。

三年の間に今の外国人人口が倍増するというようなペースを延々と続けなければならないことになりますが、そんな数の人がどこから来るというのでしょう。住民の少子化を外国人で補っている代表的な国といえば、アジアではシンガポールです。居住者の三人に一人が外国人ですが、それでも絶対数では一七〇万人程度。上地に限りもありますので、計画では最大でも今の二倍くらいで打ち止めということになっています。そのくらいの絶対数であれば、そもそも英語も中国語も十分に通じる多民族国家で外国人も(日本人も)まったく違和感なく住める場所ですし、達成も可能でしょう。でももう一七〇万人程度では、日本では焼け石に水にしかなりません。団塊前後の世代の六分の一以下にすぎませんから。

オーストラリアも移民を受け入れていますが、そもそも総人口が二千万人少々しかいませんので、三年で二〇〇万人というようなペースでの受け入れなどやっておりません。移民受け入れに積極的なスウェーデンの例を参考にすべきだという議論がありますが、ここの人口は九〇〇万人ですから、仮に日本並みの年間数万人の流入でも効果は出ます。ですが絶対数で考えれば、一億三千万人近くが住む日本で進む、ゆくゆくは数千万人単位に及ぶ生産年齢人口減少を、補えるだけの外国人流人はありえないのです。「中国から来るだろう」という人がいるかもしれませんが、中国側の人口の事情で、それは天地がひっくりかえっても不可能です。もう少し先でご説明します。

「絶対数が合わないということはわかった。それでも『生産年齢人口の減少を少しでも弱めよう』と言うのであれば、労働市場の門戸開放はすべきだ」という方もいらっしやいましょう。ですが、そのコストは誰が払うのでしょうか。企業や農家は安価で優秀な労働力さえ手に入ればいいのかもしれませんが、移民の住居確保、子弟の教育、医療・福祉・年金面での対応、高齢両親呼び寄せへの対応など、さまざまな課題はすべて、公共部門に押し付けられることになりましょう。自動車産業地帯などでは現にそうなっているわけですが、歳入不足の自治体がこれに機動的に対応している例は少なく、大量の未就学児童が放置されているとも言われます。彼らが成人して貧困を再生産するようになれば、欧米のように、人種差別と階級間格差の結合した社会問題が、わが国でも深刻化していくことになりかねません。

外国人労働者は人権を有する人間であって機械ではありません。人間を迎え入れる以上、人間としての生活を送ってもらえるようにするためのコストはかかるのでありまして、そういうコストをかけずに外国人だからといってこき使うような地域は必ずモラル面から崩壊していきます。しかも彼らは相対的に低所得である以上、自治体などの負担はそれだけ重くなります。そういう自覚なく、安価な労働力獲得だけを求める企業は、社会へのフリーライダーとして批判されるべきでしょう。さらに皆さん、忘れてはいけません。仮に外国からの移民受け入れを増やすことでいささかなりとも生産年齢人口の減少ペースを緩和できたとしても、そのこととは一切無関係に高齢者の絶対数の激増が続きます。